愛は いつでもそこにあるだわら。目に見えないだけで。

平山夢明感想と読みたい本メモ

読みたい本

P197
「何を読んでいる」「タニザキだ」細く長い指の間から『陰翳礼讃
』というタイトルがのぞいていた。(メルキオールの惨劇)

いんえいらいさん。

P234
「デュマの書いた『モンテ・クリスト伯
』のなかにノアルティエというある政党の幹部が登場する。彼はとても頭脳明晰であったが、ある日、脳血栓に見舞われ、瞬き以外の意志表示が一切できなくなってしまう。彼は悲嘆の余り自己の殻に閉じこもってしまうのだ」
「でも、それは物語だろう」
「実際にこの種の病気は存在する。別名〔ロックド・イン症候群〕。」(メルキオールの惨劇)

なんか乙一の話にこんなのあったなあ。意識はあるけど体は動かぬというシュチュエーションも古典なのかな。



メルキオールの惨劇 (ハルキ・ホラー文庫)

P250
「あれは予想外だし、不愉快だ」
地震は朔太郎のせいじゃないぜ」
「これは私の持論なんだが、”自分を巡る事象が負に回っているときには懸案の事項は即座に実行すべき”なのだ。さもないと負の波動に取り込まれる。絶対に失敗を避けねばならない場合こそ、この波動を振りきり、逃げ切るスピードが必要なのさ」
(略)
「どういう本を読むとそういう奇天烈な考えになるんだ」
「……旧約を読み給え」

さほど感銘を受けたわけじゃないけど付箋を貼った過去の自分を引き継いで書き起こし。まあそういうこともあるかもしれない。
旧約に限らず聖書は読み物として面白くないからなあ。ソドムとゴモラを知らんのか?神に殺し尽くされたエジプトの幼子たちを、紅海に沈んだエジプト軍を知らないのか?!イスカリオテのユダは神にすべての臓物を搾り取られたのだぞ!



Sinker―沈むもの (Tokuma novels)

P38
「犯罪資源には経済原理が大きく関わっていることが我々の研究では明らかだ。そして君の国は世界でも抜きん出て、経済を信奉している。我が国がキリストを崇めるのに等しいその姿は国教と呼んでも差し支えないのではないかね」

そろそろ「神はいなかった」という宇宙飛行士が必要なんじゃないか我が国には。いや経済を信奉する教会に問題があるのか。

P75
「あの姿は悲しさそのものという印象でした」
「人間が反狂乱に見える理由は単純ではないのだ。(略)君はスペース・シャトルの爆発墜落事故のニュースを見たことがあるだろ。遺族が空を仰ぎながら絶望の表情を浮かべていた。しかし当初、流された映像は爆発前の姿だったのだ。あの時点では彼らは悲しんでいたのではなく、喜びの絶頂にいたのだ。悲劇はのちに降ってきたのだよ。興味深い話ではないかね」

興味深い話である。これが創作なのか事実に基づいているのかを知るために参考文献15冊(犯罪方面のを除外しても6冊)を読むのはだるいなあ。

P135
「最近は犯罪者と一般人の区別がつかない。(略)隣の家から子供の絶叫があがっても無関心、不審な怪我をしている幼児に声も掛けない。道で人が倒れていようが、女性の悲鳴が聞こえようが、まるで無視だ。あるOLは自分のマンションのエレベーターで暴行を受け、廊下に逃げ出し、助けを呼んだが、そのまま朝まで放置され出血多量で死んだ。鑑識の報告では暴行を受けてから三時間は生きていただろうということだった。ある家庭では子供がいつも腕や頭に大きな怪我をしていた。医師は母親の嘘を真に受け、子供が<お母さんに殺される>と泣いて叫んだのに帰宅させたんだ。翌日、子供は将棋盤で頭を割られて死んだ。児童相談所に連絡すれば子供は助かったかもしれない。無関心が死亡原因になるような社会は守るに足るのか。私はいつも考えている」

1996年に出版されたというのが興味深い。もしかしたら戦前から言われていたりしてね。他人に無関心だとかなんとか。

P149
「人間が一日のうちで意識的に判断を加えている時間は驚くほど少ない。脳はそれほど雑多な処理を個々に行うようにはできてない。ほとんど人間の行動は<自動的>に動けるように意識下に閉じこめられ、<オートマトン>が造られていく。そしてその蓄積はやがて意識にも影響を及ぼし始め、その人間の価値観をやんわりと真綿でくるむようにして固めていく。」

これ面白い。
コミットメントと一貫性の理論は『オートマトン』といえる

P176
「全てを遮断された人間に必要なものは<快楽>なのだ。社会的な意味や生きる価値、自他との愛や友情といったものは社会性を味わったことのある人間の自慰に過ぎない。その意味において、それらを表現する本、音楽、映画、テレビ、演劇、漫画すらも彼にとっては無味乾燥なものでしかない。結局、人間が造りだしたメディアは人間関係を描くものだからだ。それすらからも切り離された人間が膨大に残された人生の時間を消費する方法は何だ。」

P219

タイプするのに飽きたけど地質学っていうか地磁気とESPや予言、テレパスや透視能力にほぼストレートな相関関係が成り立ったという話。lainにも地球磁気のネットワークだかが出てきた気がするし興味深い話。

P274
第一次大戦が民族の独立と主張を勝ち取るものであり、第二次大戦が国境を拡張させる国家の戦いであったのと同じことが今、起きているのだ」
「今、どんな種類の戦争が始まっているか判るかね。貧富の差や人種差別などというある地域だけに強調される要素が戦いの芽ではないのだよ。我々が直面しているのは<世代間の戦争>なのだ。幼い頃、虐待や貧窮のなかにあった者が時を経て社会の構成単位に向かって突然、暴虐を振るう。自分達を虐待した人間は既に社会から離脱していようがそれは関係のないことだ。これは典型的な戦争時の闘争原理だ。ベトナムにおいて個人的な恨みで五千キロの彼方をやってきた兵士はひとりもいない。彼らが直接、憎むべき相手の姿は常に透明で、対峙する敵は自分とは無関係なのだ。イデオロギーや概念といったものに拠って個人的な感情を排して何万人もの人間を殺傷することと、幼い頃の虐待のトラウマによって無関係の人間や集団を破滅させる行為が完全に別ものだと君は言えるかね。しかも、この戦争には敵と味方の区別がはっきりしない。家庭内にも発生するし、どんな裕福な国家も災厄を免れることはできない。国境も人種もこの戦争の特徴を言い表すことはできない。あるのは癒されない魂の暴動だけだ。その意味においては<時間の戦争>と言い換えても良い。まるでアリスだな」

ここは地獄だ。